寛弘5年(1008)頃に成ったとされる『源氏物語』は、読み物としてだけでなく、その知識 を元にした源氏絵が描かれてきた。江戸時代後期には、三代目豊国が粋で独自性のある源 氏絵を描き、一世を風靡した。三代目豊国は、美術館での浮世絵展示で取り上げられる絵 師であり、研究もなされている。ところが、その娘婿の四代目豊国(梅蝶楼国貞)については これまで特に注目されていなかった。源氏絵をよく描いたとされる、この四代目豊国は明
治13年(1880年)に亡くなっており、江戸時代最後の浮世絵師といっても過言ではない。
そこで本研究では、三代目豊国が描いた伝統的な源氏絵の『源氏絵物語』と四代目豊国 が描いた源氏絵の『紫式部源氏かるた』を比較して、四代目豊国の特徴を明らかにし、考 察を加えることとする。また本研究によって、江戸時代の人々が抱いていた『源氏物語』 の登場人物像や物語のイメージを解明することに役立つと期待される。
研究方法は、三代目歌川豊国が描いた『源氏絵物語』と梅蝶楼国貞が描いた『紫式部源 氏かるた』の絵を比較する。具体的には、『源氏絵物語』と『紫式部源氏かるた』の一帖ご とに場面や構図、人物の描き方などの特徴を分析し、『源氏絵物語』と比べ『紫式部源氏か るた』のどの点にどれほど特徴がみられるかを分析する。
分析結果は、描かれている人物に着目すると、『源氏絵物語』より『紫式部源氏かるた』 の方が総人数では61人少なかった。また総人数に占める男女の割合は『源氏絵物語』で男 性が女性を 13.2%上回った一方、『紫式部源氏かるた』では女性が男性を 10.2%上回った。 人物の用紙に対する大きさをみると、『源氏絵物語』では1/12以下が約9割を占めるのに対 し、『紫式部源氏かるた』は1/12より大きいものが約8割を占めた。服装に関しては、『源 氏絵物語』では全帖で平安時代の服装であったが、『紫式部源氏かるた』では江戸時代の服 装だった。場面では『源氏絵物語』はほとんど『源氏物語』の原作に忠実に描写されてい た。一方『紫式部源氏かるた』では、原作に忠実であったのは14帖、原作を多少脚色をし たのは 27 帖、原作からかなりの脚色をしたのは13 帖で、世俗的な脚色が目立った。構図 では、『源氏絵物語』はほとんど遠近法が無く、俯瞰した視点で描かれ、『紫式部源氏かる た』では多くが遠近法を使い人物目線で描かれていた。
以上より『紫式部源氏かるた』では、読み手や当時の流行を意識した世俗的な脚色を多 く生み出した点と遠近法を多く用い、描かれた人物の目線で、女性をより多く描き、絞ら れた人物を前面に大きく描くことで躍動感や迫力を表現しているという点で梅蝶楼国貞の 特徴が明らかになった。
今後の課題として、本稿で取り上げられなかった源氏絵を具体的に比較検討して独自性 をより明らかにする研究が挙げられる。
(指導教員 綿抜豊昭)